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食を伝える「拘り」がそこにある 我道 飲食の社長たち

日本の飲食業界をリードする社長たちの「拘り」はどこにあるのか。生い立ちや人生観などのパーソナリズム視点からひも解き、人気飲食店オーナーの素顔と内面にクローズアップしていきます。企業理念やビジョンはもちろん、お客様一人ひとりに対しての想いや取り組みも知ることができるシリーズ企画です。

記事

株式会社 築地すし好 代表取締役社長 成田仁孝氏

2012/04/17

株式会社 築地すし好

代表取締役社長

成田仁孝氏

1957年3月15日生

画期的な「明朗会計の寿司屋」の先駆けとして、常に"寿司業界の王道"を目指す。

プロフィール
神奈川県出身。12歳の時に父が病死し、経営する会社が倒産。近所の寿司屋での出前のアルバイトが、寿司業界と出会いに。当時の「もうお父さんはいないんだから、自分たちのことは自分でやりなさい」という母の一言で、「将来、父と同じように事業経営者として成功したい」という野心が芽生える。18歳で寿司の修業をスタートし、9年後、1984年に1号店をオープン。稲盛和夫氏(現・日本航空株式会社名誉会長)が主宰する経営塾『盛和塾』に入塾し、稲盛経営者賞などを受賞。経営者として心が揺らがないよう、毎朝25分の座禅を日課とする。
主な業態
『築地すし好』『JIN 仁』『新橋しのだ寿司』全30店舗の運営
企業HP
http://www.tsukiji-sushiko.com/
株式会社 築地すし好 代表取締役社長 成田仁孝氏の写真

起死回生の明朗会計導入で、「トップランナー」に。

 寿司屋の「明朗会計」は、今でこそ一般的ですが、私が創業した28年前にはほとんどありませんでした。そのような時代に私が明朗会計を始めたのは、横浜に開店した『すし好』1号店がまったく流行らなかったからです。
 私が27歳で始めたその1号店は、立地の悪い、居抜き店舗。値段は「時価」で、売上がゼロの日もありました。そこで、「これじゃだめだ」と考え、明朗会計を思い切って打ち出したのです。すると、徐々に売上が増えて、駐車場に入りきらない車が道路に数十台も並ぶほどの繁盛店になりました。その後、築地にも出店。それが、『築地すし好』の、本当の意味での始まりですね。そしておかげ様で、「銀座の明朗会計のトップランナー」と呼んでいただけるほどに成長しました。
 当時の寿司業界は、「包丁一本さらしに巻いて」という歌を地でいくような職人が多い状況でした。その旧態依然とした体質に、私は疑問を感じていまして。なんとか人を育てなければと、今から16年ほど前に、高校卒業したばかりの若者たちを一から寿司職人に育てることにしました。そしてレンタカーを借りて、4泊5日で、青森県から東北の200校を回って――。最初は断られてばかりでしたが、毎年繰り返すうちに志望者が増えて、2012年度は20人を採用。初めて、女性も4名入社しました。

寿司料理を通じて、社会に貢献し、人びとの幸福を実現。

 私たちの経営理念には、二つの事業目的があります。一つは、「寿司料理を通じて、広く社会に貢献する」ことです。
 私は、「謙虚で、人間性が素晴らしい人が握るから、お寿司は美味しい」と思っています。また、そういう人が「自分はまだまだ」と考えながら成長していくからこそ、技術が進歩・発展するとも考えます。ですから、この経営理念を実現するために、人を育てて"寿司業界の王道"を目指しています。日本の食文化の代表である本格江戸前寿司の真髄を、そして職人をしっかりと育てる会社にしかできない心のこもった美味しさを提供するのが、私たちの社会的責任であり、使命です。
 もう一つの事業目的は、「働く全従業員の物心両面の幸福を実現する」こと。従業員も、その家族も、全員が幸せになってほしいと考えています。そのためにも、人と会社が成長・発展していくことが大切です。夢を持っていて、人間性の豊かな職人が、お客様から「美味しいお寿司を握ってくれて本当に幸せだ」と支持される。その結果、売上や利益が上がって、会社が成長する。そう、私は考えます。だからこそ、「利益を上げる」ことが目的なのではなく、「社員を守るという目的のために利益を上げる」ことが必要なのです。
 これら二つの理念をぶれさせないためにも、、「売上や利益を上げるのは何のためか」といったフィロソフィーを若い職人にも常に伝え、5段階の資格試験や「心を高める 技術を伸ばす大会」などを定期的に実施しています。人材育成なくしては、企業の発展も、寿司業界の発展もないでしょう。

お客様にも従業員にも嘘をつかない、誠実な経営を目指す。

 嘘をつかず、誠実な経営をする。そのためにも、私は創業時から毎朝3時に起きて、市場へ仕入れに行っています。市場に行かなかった日は、今まで一度もありません。さらに、旬の食材を仕入れてお客様に提供するために、日本全国へ仕入れに出かけることも。このような、誰にも負けない努力をしてきたのは、「自分で見て買う」ことが一番大事だと考えているからです。自分が納得した食材だけをお客様に食べていただきたいですし、お客様に嘘をついたり、ごまかしたりするような戦術・戦略は使いたくないんですね。考え方が古いかもしれないですが、常に誠実でいて、お客様から「美味しい」と言われて、またお客様がリピートしてくださることが私の喜びです。
 また、店内の水槽も、見た目は良いのですが、菌が繁殖しやすいので全て撤去しました。これも、非常にたくさんのお客様がご来店くださいますので、衛生面も含めた信用や信頼も大切にしていきたいと考えているからなんですね。
 そして私は「お客様を心地良くするには、自分たちも働くやりがいや生きがいを感じて、心地良くなければいけない」とも思っています。ですから当社では、全員参加の経営を実践してきました。毎日の売上から仕入れ、労働時間まで、全ての経営情報を開示しています。全員が経営者という当事者感覚を持てば、お店の物一つにしても、お客様お一人にしても大切にできるじゃないですか。やはり寿司業界の王道を目指すためには、そういった経営面やコミュニケーション面の充実も必要だと思います。

3つのグループによる健全経営で、"寿司業界の王道"になる。

 現在私たちは、『築地すし好』に加えて、高級部門の『JIN 仁』(東京・赤坂)、さらに新たに仲間に加わった『新橋しのだ寿司』を展開しています。
 『仁』は、著名人の方々にも多くご利用いただいている、大切な方をおもてなしいただける高級店です。また『新橋しのだ寿司』は、かんぴょう巻きや押し寿司、そして飲み放題の寿司居酒屋など、気楽に寿司が食べられる業態で人気があります。今後はこれら3業態全体で健全な無借金経営を行い、全従業員と家族を守り、社会にお役に立てるグループであり続けたいと考えています。
 実は、築地すし好の店舗数は10年前と変わっていません。それは、人材育成が追いつかないチェーン展開をせずに、内部留保を優先した財務体質を維持してきたからです。会社を潰してしまっては、経営理念を守ることもできませんし。これからも、「創意工夫や努力をして、人を育てた分だけ、新しい事業を確立していく」という起業姿勢は変わりません。
 そして、きらりと光る"寿司業界の王道"を目指す中で、職人たちが人間的に成長し、結果的に技術も伸ばしていってもらいたいですね。のれん分け制度で独立して、郷里に帰って開業してもいいですし、海外で活躍してもいい。職人同士で結婚して、夫婦で寿司を握るのもいいかもしれません。お客様が喜んでくださることを「自分の喜び」と感じて、そのような仕事に感謝して取り組める立派な経営者として成功してくれるのが、私の夢であり、楽しみでもあります。

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