1. 我道 ~飲食の社長たち~
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食を伝える「拘り」がそこにある 我道 飲食の社長たち

日本の飲食業界をリードする社長たちの「拘り」はどこにあるのか。生い立ちや人生観などのパーソナリズム視点からひも解き、人気飲食店オーナーの素顔と内面にクローズアップしていきます。企業理念やビジョンはもちろん、お客様一人ひとりに対しての想いや取り組みも知ることができるシリーズ企画です。

記事

株式会社トラジ 代表取締役社長 金信彦氏

2012/05/30

株式会社トラジ

代表取締役社長

金信彦氏

1966年1月17日生

焼肉業界の概念を変えるチャレンジ精神と韓国食文化の伝承を両立する、強い想い。

プロフィール
東京都出身。大学卒業後、家業の焼肉店に勤務。約7年間調理業務を任され、27歳で独立して『炭火焼肉店トラジ 本店』を恵比寿に開業。厚みのあるタン塩や珍しいヒレ肉など、特徴のあるオリジナル商品で人気を博す。趣味はロードバイクとマラソンで、自転車通勤を6年間継続。東京マラソン出場を目指し、週末に数十キロを走るなど、トレーニングを欠かさない。残念ながら大会出走権は得なかったが、2012年は開催翌週に同一コースを完走。「体を動かすことが好き」で、小学生の頃からサッカーを始め、現在も社内のフットサルチームで汗を流す。
主な業態
炭火焼肉『トラジ』(41店舗)をはじめ、『Ginseng』『PARAM』などの運営
企業HP
http://www.ebisu-toraji.com/

株式会社トラジ 代表取締役社長 金信彦氏の写真

人間関係を重んじ、自分が納得いく料理で勝負する店をつくりたい。

   私の実家は焼肉店を営んでいましたので、小さい頃からずっと親の背中を見て育ちました。朝早くから夜遅くまで働く姿を見て、少しでも親孝行できればと考えたのが、焼肉業界に入ったきっかけです。
 私が家業を手伝った約7年間で1店舗から4店舗に事業が拡大する一方、私と母との間で摩擦が生じていきました。それは、「雇用」に関する想いの違いです。経営者である母の「雇用」に対する認識は、以前の個人商店時代と変わりませんでした。しかし、母と従業員の間に立っていた私は、雇用側と労働側との関係構築の大切さや、報酬・待遇面の重要性をすごく強く感じていたのです。そして27歳の時に、自分の思う会社づくりをするために独立。1995年12月にオープンした1号店が、恵比寿の『炭火焼肉店トラジ 本店』です。
 それまで私は食材管理と調理を担当していましたから、自分の店ではすべて自分が納得いく料理を出していこうと考えました。スタッフは、私と妻とアルバイトの計3名。資金もありませんでしたから、メニューを絞り込んで、自信のあるものだけで勝負しました。
 しかしオープン直後、商売はあまり振るいませんでした。最初の1年間は、月商200万円前後で推移。しかし、ちょうど1年経った12月度の売上が300万円に増加し、その後は毎月100万円ずつ更新していきました。好調時は月商1000万円ほどを売り上げたこともあります。そして店舗のキャパシティが足りなくなったのを機に、1998年12月、近隣に2号店『庵』を出店しました

既存の概念を変えて、名物『タン塩』や人気店を生み出す。

  開業当時は、毎晩仕事が終わってから、若いスタッフたちと焼肉パーティーを開くのが楽しかったですね。毎日、夢を語って――。おかげさまで、今でこそ40店舗を超える事業規模になりましたが、当初は純粋に「この店がお客様に受けて、若い仲間と楽しく仕事ができて、自分の手作りの料理でお客様をもてなしたい」と考えていました。欲はあまり無く、原価計算などもしませんでした(笑)。そういった無欲なところが、お客様には良く映ったのかもしれないですね。
 分厚い『タン塩』がご好評いただいてきましたが、従来主流だった薄切りのタン塩のイメージと違うため、最初は「取り替えて」とよく言われました。もちろん私たちも薄く切る技術は持っています。しかし、厚いタンを自分たちの特徴と考えていましたので、お客様には「できましたらそのまま召し上がっていただいて、お口に合わなければ切ります」と、その都度お伝えしていました。そのような手間を惜しまなかった結果、「これはいい!」というお客様が増えていったのです。
 さらに、焼肉業界ではあまり使わなかったヒレを扱い始めたのも、私たちの特徴かもしれません。ヒレは、柔らかくて味わい深いのですが、劣化が早く、単価が高い。扱いにくい商品なんですね。柔らかすぎて、お客様から怒られたこともあります(笑)。
 このように、「従来の概念を変えることで商機を見出す」という発想を、トラジは持ち続けています。ちなみに恵比寿4号店の『Ginseng(ジンセン)』は、「どうせなら、他にない『日本一の焼肉屋』をつくろう」という私たちの一つの夢を実現させた高級業態店です。

韓国の食文化を通じて、人に幸せと健康をもたらす企業に。

  私たちトラジは、「食文化を通じ、お客様を幸せにする企業」を理念とし、「焼肉、韓国食文化の地位向上」を目標にしています。私は3代にわたって東京・深川に住む“江戸っ子”ですが(笑)、韓国国籍の在日三世です。ありがたいことに、自分たちの民族・文化を一つの特徴と捉える仕事に携わっていますので、焼肉屋を“ビジネス”というよりも“異文化の交流”のような切り口で考えています。そういった意識が強いからこそ、“食”ではなく、“食文化”を通じてお客様を幸せにしたいのです。
 さらに私は、焼肉は「味も栄養も王様だ」と考えています。滋賀県立大学名誉教授の鄭大聲先生のセミナーをはじめ、さまざまな機会で「韓国料理が健康にもたらす効果が世界的に認められている」と知りました。そのことで「自分のビジネスが、人間の健康に直接貢献し、世の中の役に立っているんだ」と自信を持ったのです。これらの想いや自負を、当社は『食』『医食同源』『チームワーク』『感謝』『チャレンジ』からなる<トラジ五大精神>として掲げています。
 そして、開業以来のモットーである「常にお客様の立場に立って考えて行動しなさい」という人材教育をさらに徹底するために、従業員向け教育機関「焼肉大学」という研修プログラムを設置。『焼肉・韓国食文化』『調理』『マネジメント』『接遇』の4コースを設けています。講師は、当社の外部顧問でもある鄭先生をはじめ、キャビンアテンダントの外部講師など、各分野のプロフェッショナルの方々。スタッフ全員が、焼肉が好きというだけでなく、さらに知識を深め、研究を進められる環境を整えています。

新しい業態にもチャレンジし、事業規模を2倍に拡大する。

 2015年、トラジは創業20周年を迎えます。今後5年間の中期計画目標は、事業規模を現在の2倍にすること。その過程において、お客様満足度(CS)と従業員満足度(ES)の業界ナンバー1を目指し、スタッフ全員にとってやりがいある仕事や環境づくりを進めます。
 事業規模を広げていくためには、既存ブランドだけでは事足りなくなるでしょう。そこで、より多くのお客様に根付いた、より日常的な存在になるために、ファーストフードからファミリーレストランまで業態を広げ、さらに現状の業態もバージョンアップしていこうと考えています。
 新業態としては、2012年4月に新しく『冷麺専門店トラジ』をオープンし、5月にはサラダバーを併設した『葉菜』を開店しました(神奈川県横浜市・上大岡駅)。『葉菜』は、肉との相性が良い野菜の「体に良い」食べ方を提案するなど、<食べる薬局>ともいえる新スタイルのお店です。
 当たり前のことではありますが、私は「きれいに生き、嘘をつかない」という信念を持ってこの仕事を続けてきました。うまく見繕って前へ進むよりも、正直に生きるほうが簡単で、損をしない生き方だと思うのです。幸い、当社のスタッフは素直なので、そのポリシーは社内に根付いています。しかし、価値観が多様化する現在、「損をしない」という状態で立ち止まっていては、お客様の期待値以上のサービスを提供することはできません。ですから私たちは、既存概念には止まらず、常に新しいものをつくるチャレンジを続けます。そして、韓国食文化に携わる想いや、先人が築き上げた無形財産のようなものを皆さんに伝えていきたい。そう、強く思っています。

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